やおいとノーランと私

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こんにちは!ぽっぽアドベント12日目(カレンダー3つめ)を担当いたします、ひろちです。どうぞよろしくお願いします。
本日12日は宇宙猫ながよさん、空尾さんもご担当されています!すてきな記事をぜひ。

① 宇宙猫ながよさん

adventar.org

② 空尾さん

adventar.org

③ ひろち

adventar.org愛溢れるすてきな記事ばかりで、毎日の更新が本当に楽しみだった昨年の「ぽっぽアドベント」、今年はぜひ自分もと参加をさせていただきました。主催のはとちゃん、最高のホリデー企画をありがとう!愛しているよ!
今回も毎晩更新される記事をほくほくと読ませていただいています。なんて贅沢。初参加で少し緊張もしていますが、このエントリがどなたかの息抜きになりましたら幸いです。

 今年のテーマは「変わった/変わらなかったこと」。

変わったことといえば、2020年初頭からCOVID-19の感染拡大とともに、世界中がこれまでの「当たり前」を変えざるを得なくなりました。私自身も仕事が一時期は完全テレワークになり、ストレス過多だったのかなぁという落ち込んだ心身状態も経験しました。
何より自由に歌えなくなったこと。思ったよりこれがきつかったです。私は小学生のころに合唱を始めて、今も自分で歌ったり子どもの表現指導に携わったりしています。これまでも何らかの事情で(受験とか)歌から離れることはあったものの、まさかこんなかたちで活動が止まるとはまったく予想していませんでした。状況が少しだけ落ち着いていた夏、感染対策徹底のうえで稽古を少しだけ再開しましたが、先日の大阪アラートによりそれも再び中止となりました。
でもこういう状態なのは決して私だけではなく、多くの方が自分の何かをストップさせたり手放す状況が続いていると思います。大好きな人・もの・こと、精神的に支えとなるものの必要性を改めて実感した1年となりました。
今のこのしんどい状況が本当に1日も早く終わってほしいですし、そのしんどいがすこしでも楽になるような世の中にしてほしい(それどころじゃすまない話になってきているけれど)。ほんまいい加減にどないかせぇよ日本政府。 

と、前置きが長くなってしまいましたすみません。今回のテーマをギリギリまで迷っていまして、ちょっとだけ自分の近況を記させていただきました。

 

それでは改めまして私の「変わった/変わらなかったこと」、クリストファー・ノーラン監督と彼の生み出す「やおい」に心かき乱されっぱなしだった10年について記したいと思います。よろしければお付き合いくださいませ。ゴーゴー。

 

※個人の見解を多大に含んだ内容となります。また、『インセプション』および『テネット』のストーリー内容にも触れております。未見の方はご注意くださいませ。

 

■それは「やおい」というんです、監督

映画監督クリストファー・ノーランと聞いて、みなさんは何を思い浮かべるでしょうか。
ストーリーはシンプルだが構成や世界観が独創的で非常に複雑、エモーショナル、秘密主義、こだわりまくる実写撮影(爆発するボーイング機)、孤独や「遠さ」への憧れ、ハンス・ジマー、作中で時折見せられる余白と粗さに翻弄される、トム・ハーディキリアン・マーフィーら瞳の印象的な俳優陣で構成されたレギュラー組、マイケル・ケイン、劇場上映に対する敬意と熱意、IMAX…などなど、人によって千差万別だと思います。

 そのなかで今回、私がテーマとして取り上げるのが彼の生み出す「やおい」です。やおい、大好きです。

 「ノーランは、天然物のやおいを無意識に作って担いでやってくる」

 これは、お友だちが以前Twitterで呟かれていたものです。直接そのお話を聞かせてもらった時、私は「それやわ」と道端で声を上げたことを記憶しています(よく声が通りがち)。
男と男の出会い、執着、絶妙な関係性、こちらの想像力を掻き立てる彼らの余白、それらをノーラン作品では多く観ることができます(※個人の印象です) 。「何を見たんだ我々は」と、どえらいやおいを浴びたときのあの呆然とした心地、ありますよね…。
ただ、ノーラン作品におけるそれは、彼がそういった要素を自覚的に取り入れているのではなく「気づいたらできていた」に近いのではないか、という印象を以前から持っていたんですよね。「やおいです」って本人はビタ一文意識してないんですけど、こちらからしたら「なるほど。それめっちゃやおいですね…」みたいな。
もちろん、他にもそういった作品はあります。映画館の椅子からずり落ちそうになるとか、読みながら耐え切れず一度本を閉じて噛み締めるとか…度々あります。でも、ノーラン作品のやおいに寄せるその感覚をどう表現すればいいのかずっと分かりませんでした。どうしてこんなに自分にインパクトを与えるのか言語化できないのは、とてももどかしかったです。
そんな悶々とした日々を過ごしていたのですが、ついに的確に示してくれた言葉と出会うことができました。それが先述の「天然物のやおい」です。まさに至言、言い得て妙とはこのことで、私は膝を打ちました。大好きな友よ、ありがとう。目の前が明るくなった心地がしました。

(ちなみに、彼の公私共のパートナーでありプロデューサーのエマ・トーマス氏は、そこ(やおい)を把握したうえで監修されてるのでは…と私は考えています。が、それは後程に…)

数年に一度、ブロックバスター作品と一緒にやおいを抱えて現れるノーラン監督。そんな(そんな?)彼が放つ男たちの関係性から逃れられない方も多いのではないでしょうか。かく言う私も、かれこれ10年ほど同じやおいの船に乗り続けています。

そう、『インセプション』のアーサーとイームスです。

 

■『インセプション』との出会い

私がその作品に出会ったのは、2010年の夏のことでした。

インセプション』円盤・配信情報などはこちら

<あらすじ>
ドム・コブ(レオナルド・ディカプリオ)は人の心が無防備な状態、つまり夢を見ている間、潜在意識から貴重な秘密を盗み出すスペシャリスト。その特異な才能は産業スパイが暗躍する世界で重宝される一方、そのために彼は最愛のものを奪われ、国際指名手配されてしまう。そんな彼に失った人生を取り戻すチャンスが。そのためには「インセプション」と呼ばれる、アイデアを盗むのとは逆に相手の心に“植え付ける”、およそ不可能とされる任務を成功させる必要があった。(ワーナー・ブラザーズ公式ホームページより抜粋)

当初のきっかけは、好きな俳優の一人である渡辺謙がノーラン作品に再出演するという情報を知ったからでした。でもなかなか観に行く時間が取れず、もう上映終了のころに、今はもう閉館してしまった梅田ピカデリーにぎりぎり駆け込んだことを覚えています。
鑑賞後の感想は「おもしろかった!」、この一言に尽きました。想像をはるかに超えた、何層にも重なる迷宮のような夢の仕組みやキャラクターの魅力に大興奮し、仕事やプライベートでクサクサしていた気分も一気に吹き飛びました。特に第二階層の無重力シーンはものすごく印象的で、当時あまり沢山の映画作品に触れていなかった私が「映画すごいな、面白いな」と肌で感じた瞬間でした。とてもいい体験だったと思います。

そして、本作に登場する二人こそが、私の心をつかみ運命を変えていく人物だったのです。

 

<アーサー(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)>

inception.fandom.com

コブの相棒。チーム内では、案件に関するリサーチやロケハン、ディレクションなどメンバーが滞りなく仕事を行えるよう的確にサポートする「ポイントマン」という役割を担い、アリアドネに夢のトレーニングを行ったりもする。冷静かつ生真面目な性格で、オールバックとスーツスタイルがポイント。トーテム*1は赤いイカサマサイコロ。

<イームス(トム・ハーディ)>

inception.fandom.com

夢の中であらゆる人物を演じることのできる偽造師。その実力は本編をぜひご覧いただきたい。想像力が豊かで、チーム内でもアイデアマンとして意見を上げているところが多くみられる。コブ、アーサーとは以前仕事を共にしたことがあるみたい?常に飄々と食えない笑顔を見せており、派手な柄シャツが特徴的。トーテムは赤いカジノチップ。

 

拙い紹介文で恐縮です。冷静に書こうとしたらこうなりました。

ただ正直なところ、劇場鑑賞時にはさほどピンと来ていなかったことをここに白状します。いや本当に。人間というのは分からないものです。
なぜなら、その時の私はどの沼にも属しておらずShipperとしても長らく休眠状態、やおいアンテナの感度も鈍っていたからです。ということにしたい。させてほしい。
もちろんイームスとアーサーが交わす劇中でのやりとりを見たときには、おっと思うところがありました。でも「ははー、これはなんかあるんでしょうね」と深堀りもすることなく、素通りでした。何が上から目線で「ははー」やねんなって感じです、今振り返ると。

なので、あのイームス先生の声に出して言いたい名言「You musn’t be afraid dream a little bigger, darling.」も素で聞き逃していたし(字幕は「夢なんだ、派手にいこうぜ」というような感じ)、その後二人をしばらくは追いかけることもありませんでした。あの夏の私は、すごくもったいないことをしていたと思います。

 

■5年10年追いかけたくなるやおいに落ちる

それから私に異変が起こったのは、同作のDVD/BDが発売されてしばらく経った頃でした。そういえば(そういえばかよ)買わなきゃなと、ものすごく適当なタイミングで購入しました。ほんと推したちに申し訳ないほどのいい加減さです。
そして、自宅で改めて鑑賞したことでひっくり返ったのです。え、大変な二人がいますけれども、どういうことですかね???と脳が大混乱でした。去年ちゃんと観たのか?と自分を疑うほどに。ついに出会った瞬間でした。なんでそんなにお互いを意識し合っているの?ってか、ダーリンって何…?初めてそれを耳にした時の衝撃ったらありませんでした。映画館でも同じ台詞を言ってたはずなんですけどね、おかしいな…。
気がつけば、俳優さんたちの関連動画や画像、さらにFan Fictionを探しに数年ぶり*2に洋画沼に飛び出していました。過去の経験+αを総動員して検索するさまは文字通り沼に叩き落された人間であり、久々の高揚感でした。
現在、私のいちばんの推しであるトムハにはまったのも、同時期のことです。むしろ『インセプション』を何度も再生しているうちにその魅力に惹かれ、彼の他出演作にも手を広げていきました。結果、あぁ演技や仕草、人柄がすごく好きだなぁとのめり込み、今に至ります。
推しができた途端、推しCPまで爆誕したものですから、当時の私はとっても大変でした。が、同時に現在へと続く充実した日々の始まりでもありました。

昔から、「水と油のように正反対の性質を持つ二人が、互いを認め合って抜群の相性の良さを発揮する」そういうやおいが大好きでした。一見、犬猿の仲で考え方も異なる、小競り合いなんて日常茶飯事…それでも双方が相手の実力をきちんと見極め、認めている。アーサーとイームスのコンビも、まさにそれに合致するものであるから、ここまではまったのだなと思います。
それは本編でも実感できて、初登場の際にイームスはアーサーのことを「He is the best.」と表現しています。前後では「頑固者」と揶揄したり「想像力がない」と言っていますが、「最高だ」と感じさせたエピソードがあるのでしょう。また、アーサーもアーサーでワークショップの際に、イームスのアイデアを聞き「君は天才だ」とほめています(どこまで本心かは測りかねますが)。
さらに、ところどころに垣間見える二人のちいさなやり取りと反応から、既知の間柄だからこその気安さと彼らの「素」も感じ取れ、もしかしたら本編以前から互いの実力や性格を熟知するほどに付き合いがあったのでは、という想像が膨らむのです。それは仕事仲間だったかもしれないし、はたまた恋人という関係にあったかもしれません。

そんな二人の過去と関係性を裏付けてくれたのが、プロデューサーであるエマ・トーマスさんのコメントです。

「イームスとアーサーの間には、面白いダイナミックさが存在していて、彼らの力関係(ライバル関係)は映画のストーリーが始まるずっと前から明らかに続いています。お互いに認めたがらないけれど、彼らは相手の腕を惜しみなく称賛し合ってしているんです。物語が展開していくなかでの二人のやり取りはかなり面白いですよ」(一部意訳)

ふたりの関係性についての把握・考察っぷりが完璧です。さすがプロデューサーです。「こうかなぁ」と手探りで考えていたことをズバリと表現してくれていたコメントに、拍手を送ったことは言うまでもありません。むしろもっと詳しく聞かせていただきたい。トーマスさん、いつでもお待ちしております。今撮るなら、その関係性をもっと明らかにしていただくのもいいんじゃないのかな…とも思います。
もちろん、本作ではこの二人以外にも生きのいい天然物のやおいを見ることができます。例えばサイト―とコブだったり、ロバートとイームスだったり…いっぱいです。
ちなみに私はイムアサ推しですが、アサイムも大好きです。どっちも超いい。

そして2020年、『インセプション』は公開から10周年を迎えました。ものすごく感慨深かったです。10年間ひとつの作品と共に歩むなんてことは人生で初めてだったので、「10年か…」となんともしみじみしてしまいました。
IMAXでの再上映にも運よく行くことができ、久しぶりにスクリーンの彼らと再会したとき、気付いたら早々に泣いてました。アリアドネとアーサーのキスなど、今見ると「その描写はどうなのか」と感じるところもありますが(それはテネットにもつながるのですが)、脚本も演出もキャラクターもやっぱり好きだなぁ、好きでよかったなぁと思いました。間違いなく、私のオールタイムベストの1本です。 

 

■『テネット』という新たなやおいと「クリストファー・ノーラン」というジャンルについて

最後に、今年新たに公開された『テネット』について。

ノーランったら、またどえらいやおいを捕まえて来たんだな…というのが、公開前に発表されたポスターと予告を見て最初に持った感想です。ここまで最初っから全面的に男二人の関係を出したのはノーラン作品で初めてだと思いますし、予告におけるベールに包まれながらも二人はいいバディになるのかもしれない雰囲気は、私にまた新たなやおいの火をつけました。本当に気が早いなと思いますが、初めて本編を観る前にFan Fictionを書くということもしてしまいました(結構その話が気に入っていたりもする)。

本編を観た感想としては、男が男と出会い、救う話をついにど直球で作ったな…です。個人的には、「必ず迎えに行く(助けに行く)」という点において、『インセプション』のサイトーとコブと通じるところもあるんじゃないかという気がしました。けれども、ある程度できあがっている関係を今まで見せてきていたノーラン監督作品において、始まりと終わりを描いていたのは新鮮でした。あんまりにもストレートだったし、「君になら殺されてもいいかな」的な台詞をまさか聞くことになるとは思わなかったので、本当にびっくりしましたが。

一方で、いまの映画としては課題も多い作品だと思っています。もう自分含め多くの方が考えたり言及をされていますので改めて深く書くことはしませんが(ものすごく長くなりそうなので)、女性に対するDVの描写やキャラクターの担う役割と割り当てられた俳優さんの人種がまだまだステレオタイプであるなど、一線を走る映画監督としてその辺りはどう意識しているのだろうと感じることが多くありました(もしかしたらインタビュー記事などあるのかもしれませんが、まだ読んでいないのでご容赦ください)。
彼のリスペクトしているものや盛り込みたい演出・ストーリーはわかるものの、「これは現在の価値観に沿っているのか」という思いが鑑賞中何度もよぎり、初見はものすごくもやもやとした気持ちで劇場を出ました。
ノーラン作品の独特の世界観と作風は「クリストファー・ノーラン」というジャンルでもあると思います。でも、だからこそ「ノーランだしな」で看過しそうになることもあるんですね、それが長所だったらもちろんいいんですけど。でもどんな物事にせよ「○○だしな」で蓋をしてしまうことは危ういことだし、一瞬でもそういう考えをしそうになった自分に対し、今は反省しています。好きだからこそ意見も持つし、変化をしてほしい。
次作がきっと数年後に控えていると思われますが(現在ワーナーが新たに発表した方針との対立もあり、そこは心配)、アップデートされた彼の作品が観られることを願ってやみません。

 

■おしまいに

想像以上に長く書いてしまいました。ここまでお付き合いくださり有難うございます。
好きなものだからこそ相手・作品との向き合い方を考えてみる、変わらずひとつのCPを愛し続ける、この二つが今年の私の「変わった/変わらなかったもの」でした。

インセプション』、ぜひご覧ください。観られたらぜひ教えてください。
また、『テネット』は12月16日にデジタル先行配信、円盤は2021年1月8日に発売でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

それではみなさま、すばらしきホリデーを!
明日、12月13日は透子さん、映子さん、どじょんさんです。楽しみだなぁ!

*1:夢と現実を区別するために個々が用意したアイテム。本人しかわからない仕掛けが施されており(それが作用するかしないかで夢と現実を判断する)、他人に触らせてはいけない。

*2:指輪物語、ハリポタ(親世代)ぶりでした